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“自転車以上自動車未満”の領域をカバーする存在に カワサキモータースが電動3輪ビークル「noslisu e」に込めた想い

2023年6月30日にカワサキモータースから発売された「noslisu e(ノスリス イー)」。
ユニークでオリジナリティーあふれるこの電動3輪ビークル誕生の裏には、偶然が生んだ興味深い物語がありました。
今回は開発リーダーの石井宏志さんに、開発の背景や想いについて、そしてカワサキモータースのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みについて話を聞きました。
安定性に優れた3輪構造が叶える、快適で気軽な移動体験

「noslisu e」は、「快適で気軽な移動体験をすべての人へ」というコンセプトから生まれた、まったく新しいフル電動3輪ビークルです。前2輪、後1輪というレイアウトと20kgまで積載可能なバスケットを低い位置に設置したことで、安定した乗り心地を実現しています。また、前の2輪はそれぞれが独立して動くため、片側の車輪が段差を通過しても車体は水平を保つことができます。
定格出力は500Wで最高速度は35km/h。取り外しができるリチウムイオンバッテリーを搭載しており、家庭用コンセントから充電することができます。5時間の充電で約47kmの走行が可能なため、通勤や買い物など、“ちょっとそこまで”の移動がより楽しく、より気軽なものになる、そんな乗り物です。
「noslisu e」は、道路交通法では普通自動車扱いで、道路運送車両法上では第一種原動機付自転車扱いとなるミニカー登録モデルとなるため、運転には普通免許(AT限定可)が必要です。
偶然の出逢いが“小型で安い3輪モビリティ”開発のきっかけに

2019年の冬、とあるホームセンターの駐車場でイタリアの珍しい3輪オートバイが停められているのを見かけた私は、どうしてもそのオートバイに乗ってみたくてオーナーが戻ってくるのを待っていました。
すると私をオーナーだと勘違いした人たちが次々に声をかけてきたんです。それぞれ50代から60代ぐらいの男性だったのですが、みなさんの話にはとある共通点がありました。
「そう遠くない場所に母親が住んでいるのだが、何かあった時にすぐに駆けつけられるようにしたい」
「でも神戸の山の中だから坂が多くて自転車では難しい」
「クルマだと渋滞もあるし家族が使っていて出せない時もある」
「かといって原付やバイクだとコケたら危ないと家族に反対される」
「その点、3輪ならコケる心配もないから良さそうだ」……
それまで私は時速400kmで走るようなオートバイを作り続けてきました。それはそれで楽しかったのですが、世の中の役に立っていたかというと正直疑問符が付くなと感じていたんです。でも3輪の小型モビリティであれば、今目の前にいる方々の悩みを解決し、生活を豊かにすることができるんじゃないか――この時の出来事がきっかけとなり、小型で安い電動3輪モビリティの開発がスタートしました。
こだわったのは、自然な操縦性を実現すること

開発に際し最も大きな課題となったのは、自然な操縦性を実現することでした。自転車であれば感覚的な操縦ができるのですが、3輪にはやはり独特の癖があります。そのため、まずはそのフィーリングを知ろうと自転車の車格に落とし込むところから始めました。
2輪の設計を長年やってきた経験を活かし、徹底的な解析のもと3輪の構造を作り込んでいったのですが、フィーリングを2輪に寄せるとどうしても重く高く複雑で、特殊部品が必要になってしまいます。それでは「快適で気軽な移動体験」を叶えることはできません。なるべく市場に流れている部品を採用しながら、誰もがすぐに乗れるものにしようと試行錯誤を重ねました。その結果、自転車に近い感覚で5mも走ればそのフィーリングにスッと馴染めるものを作り上げることができました。
また、乗り物というのは重心の高さや位置が非常に重要で、運動性能のほぼすべてを決めていると言っても過言ではありません。重いものは低い位置に、かつ車体の中心に置くのが鉄則です。そのため「noslisu e」ではあえて低い位置にバスケットを配置し、車体の安定性を図ることにもこだわりました。
こうして開発した「noslisu e」の試乗会には予想を超える多くの方々が来場、またクラウドファンディングでは電動アシスト自転車と併せ計100台がその日の内に完売するという大変大きな反響をいただきました。
実際に試作車両を日常的に使ってみて感じたのは、電動アシスト自転車だとちょっと遠い、だけど渋滞や駐車場のことを考えるとクルマを出すのも面倒だという場面が実に多くあるということ。「noslisu e」はそのような、“自転車以上自動車未満”の領域をカバーする存在として、生活の役に立つ乗り物になると考えています。
今後は「noslisu e」に続き、荷物の運搬に特化したモデル「noslisu cargo(ノスリス カーゴ)」の発売を予定。約120Lの大容量で、物流や配送などさまざまなビジネスシーンでの課題に対応します。
電動アシスト自転車「noslisu」を始め、いずれもカワサキらしさが出た乗り物になりました。モノづくりは設計図だけではなく、携わる人間の体臭が染みつくものです。個性を出そう、企業らしさを発揮しようとは思っていないのですが、結果的に携わる人間の想いが滲み出て、それが“カワサキらしさ”と呼ばれるものになっていったように思います。
カーボンニュートラル実現も、カワサキらしいやり方で

カワサキモータースは、2035年までに先進国で販売する主要バイクの電動化を完了させる方針であり、そのためにあらゆる方法で取り組みを進めています。その中のひとつが、多数の企業とコンソーシアムを組んだHySE(水素小型モビリティ・エンジン研究組合)での研究です。インフラの整備が条件とはなりますが、HySEでの研究成果を活かし、2030年代前半には水素二輪の実用化を目指します。
カーボンニュートラルの実現のための電動化には、EV以外にも多様な選択肢があります。EVだけでなく、ハイブリッドや水素燃料による内燃機関を含め、やれることはすべてやるというのが私たちのスタンスです。
これからもカワサキらしいやり方で、お客さまや社会ニーズに適応した製品を提供することで、カワサキに関わる人すべてのよろこびと幸せを実現できるよう、カーボンニュートラルに向けて取り組んでまいります。